朝日新聞(山梨版朝刊 11月28日)                 戻る

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愛犬との年月 刻む
   
清里の入江さん夫妻 思い出一冊に

今年1月、清里高原で1頭のゴールデンレトリーバーが11年8カ月の生涯を閉じた。名前は淳一郎(ジュン)。「つらそうだからもうお休み」。主人の言葉に応えるようにジュンはそっと顔をあげ、静かに眠った。

北杜市高根町清里でペンションを営む入江良雄さん、須美子さん夫妻が生後20日のジュンを知人から譲り受けたのは92年6月。当時、入江さんは犬2頭、ウサギ4羽、猫1匹を飼っていた。ジュンはすぐに仲間にとけ込んだ。お気に入りはジャズが流れるペンションのバーラウンジ。お客さんの傍らでいつも寝息をたてていた。「看板息子でした」と須美子さん。ジュンが小犬の頃、ソファの上にパンくずを散らかしたことがあった。「こんなに散らかして」と言いながら夫妻は新聞紙を敷いた。それ以来、ジュンは新聞紙を敷かないと決して食事をとらなくなったという。「そのままでいいよ」と言っても、新聞紙をくわえて「敷いて」と駆け寄ってきた。「会話の内容やトーンを彼なりに理解していたんでしょう。頑固で自己主張の強い子でした」ウサギや猫と楽しそうにじゃれ合い、冬には一面の銀世界を元気に走り回っていたジュンだったが、02年夏、腰にがんが見つかった。サブリメントを与えるなどの治療を試みたが、次第に少しの段差も嫌がるようになり、呼吸も速くなった。亡くなる2日ほど前から」ジュンの目から涙がこぼれるようなった。「痛みをこらえての涙か、それとも自分の死を悟ってのものなのか。それはわかりません」と良雄さん。そして今年1月25日夜、良雄さんにみとられ息を引き取った。--おぼえているかい(中略)急流にそっと入って一生懸命泳いでも流されてしまったね(中略)それでも落とした手袋だけは確実に探してきてくれたね そんな老いた君が大好きだった-- 良雄さんがつづった詩の一節だ。最も伝えたいメッセージが込められているという。「幼犬は誰が見てもかわいい。でも何より素晴らしいのは老犬になってから。だから『老いた君が大好きだった』なんです」。夫妻の体調が優れなかったりふさぎ込んだりしている様子を敏感に感じ取り、そっと寄り添ってくれた。「長くいっしょにいるからこそお互いの心が通い合うんです。今でもすぐそばにジュンがいるような気がします」

「ペット失い悲しむ人に」

「ペットを亡くして落ち込む人、老犬介護に悩む人たちの参考になれば」という思いを込め、入江さん夫妻はジュンとの思い出を一冊にまとめた。タイトルは「for JUN あるゴールデン・レトリーバーと過ごした日々」。本に関する情報はホームページhttp://burnethill.comに掲載されている。問い合わせはペンション「バーネットヒル」(電話 0551・48・3243)まで。

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