毎日新聞(全国版朝刊 7月21日)                              戻る


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清里というと、何か俗化されたヤングのリゾート地をイメージする人もいますが、入江夫妻の「バーネットヒル」はそんな喧騒から離れた八ヶ岳山麓に広がる高原の森の中にあります。夫妻は犬・猫・ウサギたちと一緒に生活しています。彼らは家族なのです。
「年々気難しくなってきた老コリーのフレップ、交通事故で3本足になったのをひきっとったミックスのメイ、そのメイが拾った猫のチニタと4匹のうさぎ、もう充分すぎるくらい動物が同居していて、これ以上家族のふえる隙間がない」ところへゴールデン・レトリーバーのわんぱくそうな男の子が来ます。92年6月10日のことだと入江さんはしるします。6月にわが家に来たので「ジュン」、しかも長男ということで「淳一郎」の名がつきます。冒頭に「さびしがりもせず、ひとりでグーグーお昼寝」をする「淳一郎」くんの写真が載っています。なんとあどけなく、かわいいんだろう。見た人は誰も思わず声をあげてしまうでしょう。そんな「淳一郎」が生後20日で「バーネットヒル」にやってきて、2004年1月25日、11年8ヶ月と4日で一生を終えるまでを写真と文で綴ったこの一冊に私は感動しました。写真はネガフィルム、デジタルカメラ、使い捨てカメラを使用、プロに比べれば色や技術は決して優れているわけではありません。しかし「淳一郎」がまさに「生きている」その瞬間を見事にとらえていて、見る人の心を打ちます。文章も素直、素朴、いっさいの飾りがなくひたすら「淳一郎」への思いであふれています。死が近づいたころから「淳一郎」は目から涙をこぼすようになります。痛いから?苦しいから?それとも死の予感?その写真が最後の一枚です。多くの人に読んでほしいと思います。

自然写真家・西村豊 聞き手・早瀬圭一

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